ブログ&コラム

ドローン活用が広がる害獣対策 ―クマ被害の急増を背景に注目される技術―

コラムドローン

近年、日本国内において農業被害や山林・里山での害獣対策がますます重要になっています。

代表的な害獣としては、シカ、イノシシ、サルなどが挙げられますが、近年では人里近くまで出没するクマによる被害が社会的に大きな課題となっています。

こうした背景のもと、上空から広域を効率よく監視・記録できるドローン技術の活用が注目を集めています。

本コラムでは、ドローンを活用した害獣対策の現状、メリット・課題、さらにクマ対策における最新動向を紹介しつつ、今後の可能性について考察します。

Contents

  1.害獣対策の現状と課題

  2.害獣対策で進むドローン活用
   ① 上空からの捜索・監視
   ② 被害エリアのモニタリング・行動解析
   ③ 追い払い
   ④ 捕獲支援追い払い

  3.今、話題の「クマ対策」へのドローン活用
   ① クマ被害の現状と背景
   ② クマ対策におけるドローン活用の具体的手法

  4.導入にあたっての留意点・技術・制度的なハードル
   ① 飛行・操作の技術的制限
   ② 法制度・安全・プライバシー
   ③ コスト・運用体制

  5.将来に向けた可能性:AIや地域との連携
   ① 動物の種別の自動判別
   ② 動物の行動パターンのモデル化
   ③ 通報システムとの連携

  まとめ

1.害獣対策の現状と課題

農林水産省の発表によれば、野生鳥獣による農作物被害額はここ数年150〜160億円規模で推移しています。

このうち最も被害が大きいのがシカ、次いでイノシシによるものです。

一方、近年特に注目されているのがクマによる人的被害の増加です。

原因には人口減、里山の管理放棄、餌環境の変化、個体数の増加など複数の要因が指摘されており、自治体によっては対策班が拡充されるなど、迅速な対応が求められています。

参考:農林水産省「鳥獣被害の現状と対策」

2.害獣対策で進むドローン活用

害獣対策の現場におけるドローン活用は、主に4つのカテゴリに大別されます。

赤外線カメラを搭載したドローンは、夜間や樹林帯でも動物の熱源をとらえることができます。

特にクマは藪の奥に潜むことが多く、地上からの視認が難しいため、上空からの捜索・監視索敵は安全性向上に大きく貢献します。

自治体の中には「クマ出没の通報があったエリアをドローンで確認し、安全を確認してからパトロール隊が入る」という体制を導入している例もあります。

定期的に航路を飛行し、

  作物への侵入状況
  足跡の分布
  行動ルートの変化

を記録することで、”どこを重点対策すべきか”を可視化できます。

特に近年のドローンは、地形追従や自動航行が容易になり、広い農地でも安定したデータ取得が可能になっています。

スピーカーを搭載し、野生動物などの接近に対して威嚇を行う研究も進んでいます。

例えば、野生動物が嫌がる音(犬の鳴き声・クラクション音・花火の音・特定周波数の威嚇音)を再生する方法が試験的に使われており、被害軽減の効果が報告されている自治体もあります。

※ただし威嚇は“正しく逃がす”ための技術であり、誤った使い方をすると逆効果(学習して慣れる)になることも指摘されています。

これは実証段階ですが、

  罠の見回りを効率化
  警戒区域の監視
  捕獲時の安全確保

などの用途での活用が進んでいます。

特にクマの捕獲は危険を伴うため、ドローンで状況確認→安全確保→処理というプロセスの導入が検討されています。

更には技術実証として、さまざまな地域・用途でドローンを含む無人航空機を活用する取り組みが進んでいます。

たとえば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主導の「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」では、13地域で52機の無人機同時飛行が実施され、うち「害獣被害調査・クマの赤外線/可視光カメラ監視」などのユースケースも含まれていたことが公表されています。

こうした実証実験の蓄積が「監視・解析・運用」フェーズの社会実装を後押ししています。

参考:NEDO「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」

.話題の「クマ対策」へのドローン活用

以前よりクマ被害(特に山間部・里山近くでの人や農作物との接触)は農業者のみならず山間部に接する地域の住民にとっても大きな課題となってきましたが、最近では出没件数・被害件数ともに顕著な増加傾向にあり、自治体・国レベルで対策強化が進んでいます。

こうした中で、ドローンの活用にも注目が集まっています。

日本全国では、クマの出没・人との遭遇が増えており、環境省の資料によると今年(2025年)は4~10月だけで170件以上のクマによる人身被害があり、そのうち12人もの方が亡くなっています。

近年は、多くの自治体で出没件数が増加傾向にあり、地域によっては住民生活圏への出没が日常的な課題となっています。

背景には、山林管理の遅れや農山村地域の人口減少、気候変動によるエサ資源の減少など複数の要因が影響していると考えられています。

こうした状況を踏まえると、クマ対策では「人里と山林の境界」「侵入ルート」「夜間の監視」といったポイントが鍵となっており、リスクを可視化できるドローンの活用可能性が高まっていると言えます。

参考:環境省「クマに関する各種情報・取組」

  出没地域の広域捜索・監視

    山林・人里近く・夜間のクマの動きを、赤外線+可視光カメラ搭載ドローンで捉えることで、

    より早く「出現エリア」「行動時間帯」「侵入ルート」が把握することが可能です

  人里周辺の巡回・定点監視

    早朝・深夜にドローンを飛行させ、クマが近づきやすい場面(農地・果樹園等)を監視。

    人員による巡回に比べて低リスクかつ迅速な対応が可能です。

  捕獲檻設置や警戒線の策定支援

    空撮で地形・植生状況・人家近辺の隠れ場所などを把握します。

    その情報をもとに「クマの動線」を予測し、効果的な設置位置を選定できます。

  住民・行政への情報発信・警戒支援

    ドローンで取得したデータを基に、警報や注意喚起を行うための基盤づくりに活用します。

また前述のように、ドローンによる追い払いでは、搭載したスピーカーからの音によるものの他に、クマよけスプレーの遠隔噴霧やレーザー光線の照射などの活用が進められています。

これらの具体的手法によって、クマ対策におけるドローン活用は「研究・実証フェーズ」から「現場運用・実務フェーズ」へ移行させていかなくてはなりません。

4.導入にあたっての留意点・技術・制度的なハードル

ドローンによる害獣対策にはメリットがある一方で、導入するにあたっては、実務的な観点からいくつかの留意点があります。

  • 飛行時間、飛行距離、高度、使用機材(赤外線カメラ・GPS・通信)に制限があり、特に山林・奥山では電波・視界・風・気象条件が厳しいことがあります。
  • 動物を発見・追跡する「検知アルゴリズム」「映像解析」の技術が必ずしも成熟しておらず、誤検知・見逃しのリスクがあります。
  • 遠隔地・無人地帯では通信・操縦の安全性、現場での離着陸場所の確保などの運用設計が重要です。
  • 日本におけるドローン飛行に関しては、飛行する空域(人口集中地区・150 m以上の空域)や飛行の方法(目視外飛行・夜間飛行)等によって許可や承認手続きが必要です。 
  • 害獣対策で山間部等を飛ばす際も、それらに加えて、地元自治体との調整、地主・山林所有者との合意などが必要です。
  • 夜間・人里近くでの飛行では住民のプライバシーや騒音・安全性への配慮が欠かせません。
  • 動物対応・捕獲支援等が絡む運用では、動物虐待にならないよう倫理的配慮、自治体・研究機関との連携も重要です。
  • 機材導入・運用・保守・データ解析等にかかるコストを、従来の手法(人員巡回・捕獲設置等)と比較し、費用対効果を明確にする必要があります。
  • 運用体制(操縦者・データ解析者・メンテナンス・地元関係者との連携)が定まっていないと、導入しても継続運用が難しくなる可能性があります。
  • 得られたデータ(侵入ルートモデル化・被害予測・設置支援)をどのように活用するかを設計しておくことが重要です。

5.将来に向けた可能性:AIや地域との連携

一方で、技術の進化は明るい未来を示しています。近年は、AI(人工知能)やデータ解析技術、自治体との連携体制の高度化により、ドローン活用の幅が大きく広がっています。

ここでは、その具体例をいくつか紹介します。

AIを活用して、ドローンが撮影した熱映像や可視光映像から、動物の種類を自動で判別する技術が進化しています。

これらの研究が進めば赤外線映像に映った熱源が「クマなのか」「シカなのか」「小動物なのか」をリアルタイムに推定でき、効率的な監視が可能になります。

定期飛行によって得られた大量の空撮データを蓄積し、どの時間帯にどのルートをどの動物が移動するのかをAIが学習してモデル化する取り組みも進んでいます。

これにより、経験則に頼っていた対策を、データに基づいた「予測型」の対策へと移行できるようになるでしょう。

地域住民による通報とドローン運用を連携させる仕組みも研究が進んでいます。

例えば住民からクマの目撃情報や不審な動きが寄せられると、ドローンが自動で飛行し、現地の状況を迅速に確認。

取得した映像はリアルタイムで自治体や警察、関係機関に共有されるような、即応性の高いシステムが実装されれば、住民への注意喚起や避難判断も迅速になり、地域全体の安全性が高まるでしょう。

このような技術開発は、野生動物との共存と地域の安全確保を両立させる新しい仕組みを生み出します。

ドローンとAIが加わることで、より精度の高い危険予測と効率的な対策が可能になり、地域社会の未来を大きく前進させる力となるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

クマをはじめとする野生動物との共存は、今後も地域にとって非常に重要なテーマです。

これまでは人の目・足・知恵や経験によって対策を進めるしかありませんでしたが、ドローンという空からの視点を加えることで、安全性と効率性を両立させた新しいアプローチが可能になってきています。

技術だけで全てを解決できるわけではありませんが、ドローンはこれまで見えなかった場所や時間帯を補う力を持っています。

AIの活用や自治体、地域住民との連携が進めば、より効果的で持続可能な害獣対策が実現できるでしょう。

野生動物との距離をどのように管理し、地域の安全をどのように守るか。ドローンはその問いに対する一つの答えを示しつつあります。

今後も、最新技術の動向とその社会への応用を見つめていきたいところです。

お気軽にお問い合わせください