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令和6年版「国土交通白書」を読み解く ― 持続可能な社会の実現に向けた国土交通省の挑戦 ―

コラム

国土交通省が毎年発行する「国土交通白書」は、国土交通行政の全体像を示すとともに、現状の課題分析や未来への方向性を示す重要な指針でもあります。

また、当社の主要事業である交通・まちづくりの調査・研究事業にも深く関わる内容です。

本コラムでは、「国土交通白書」の最新版(令和6年度/2024年度 )で紹介されている内容の概要をお伝えし、中でも交通・まちづくりに関する指摘のポイントについて解説します。

Contents

  1.令和6年版国土交通白書の概要
   ① 令和6年版白書の注目トピックス「持続可能な暮らしと社会の実現」
   ② 人口減少社会に向けて―国土交通省の挑戦―

  2.国土交通分野における国の取り組み
   ① 新しい技術・新しい価値観による課題解決への取り組み
   ② 2050年代以降を視野に入れた社会像とは

  3.交通政策の推進
   ① 交通政策基本法に基づく交通政策の推進
   ② 各政策分野における交通の役割

  4.まとめ

1.令和6年版国土交通白書の概要

日本の国土計画や交通政策、各種インフラ整備から防災、観光まで、幅広い領域を管轄する国土交通省。

その業務全体の概要を一言で言えば、国土の総合的な利用、開発、保全の推進となるでしょう。

国土交通省は、こうした取り組みを網羅的に紹介する年次報告書「国土交通白書」を毎年発行しています。白書は例年、注目テーマから切り込む第1部と、国土交通行政の各動向を紹介する第2部により構成されています。

第1部では、令和4年は脱炭素化や気候変動に、令和5年は国土交通分野のデジタル化に焦点が当てられました。

そして令和6年のテーマは、「持続可能な暮らしと社会の実現」でした。

「持続可能な暮らしと社会の実現」がテーマとして設定された背景には、私たちの社会が直面する少子高齢化や人口減少、労働力不足などと、それらによる産業の衰退・空洞化、公共サービスや交通インフラの縮小、生活利便性の低下などの問題があります。

また、近年多発する自然災害への対応はもちろん、日常的な防災・減災対策なども含まれるでしょう。

しかしながら、高度経済成長期以降に整備された全国のインフラ設備は老朽化が進んでいます。

歳入が減る地方公共団体もかつてのような積極的な投資を行うことができないため、地域コミュニティの機能低下が懸念されています。

そうした中で、国土交通省は「生活利便性の改善」「地域の持続性」 、さらに「高齢者が安心して暮らせる地域づくり」に注目し、様々な取り組みを進めているのです。

引用:国土交通省「令和6年版国土交通白書」

2.国土交通分野における国の取り組み

私たちの社会が直面する様々な課題へのアプローチとして、国土交通省が注目しているのが、新しい技術による「省人化・省力化」の推進です。

インフラ整備の中心的な役割を担う建設業に対しては、ICT施工やBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)、無人航空機(ドローン)の導入、建設現場での自動・遠隔施工やAI(人口地の)の活用などが推奨されています。

また、輸送の効率化や自動運転技術の向上に向けた研究開発も進んでいるのです。

その他、地域の持続性につなげる取り組みとしては、交通DXの推進とともに、2023年9月に設置された「地域の公共交通リ・デザイン実現会議 」における議論を通し、地域交通の新たな可能性が模索されています。

これらの取り組みは、社会課題を前提とした国民への意識調査や、近年の技術動向などを踏まえ、2050年代以降を視野に入れた検討が進められています。

では、国が描く持続可能で豊かな社会とはどのようなものなのでしょうか。

ここでは、その未来予想について3つの観点からご紹介します。

(1)国土・インフラ整備

道路や橋梁など、地域のインフラを効率的に維持・管理するため、AIやロボット、ドローンなどの積極的な活用、またそれらを事業的に担う建設業や運輸業などの業務効率化をさらに進めます。

そうした未来像の実現に向けて、次世代インフラの導入に向けた研究開発の促進や、AI・デジタル技術を活用した災害予測や調査による新しい防災のあり方についても検討が進められています。

引用:国土交通省「令和6年版国土交通白書」

(2)交通

自家用車がなくても生活の利便性を失わないよう、高齢者が利用可能な小型モビリティや自動運転による公共交通機関の設置など、多様な自動運転の未来を想定しています。

これにより、高齢者や障がい者はもちろんのこと、すべての世代にとって利便性が高まる交通インフラを構築します。

(3)暮らし

3Dプリンタ技術によるロボット住宅建築は、新しい住まい方の提案につながるでしょう。

この他、自宅でのテレワークやフレックスタイム制での労働、副業の拡大など、新しい、多様な働き方が推奨され、それに合わせた社会設計が進むことになります。

インバウンド振興による観光地域づくりも、今後のまちづくりにおいては重要な観点です。

引用:国土交通省「令和6年版国土交通白書 概要」

このような未来像への挑戦をしつつ、現状の国民生活や地域コミュニティの課題解決に向けた取り組みも行われているのです。

中でも交通政策は、国土交通省が管轄する様々な領域に横断的に関わる重要な施策でもあります。

次の章では、この「交通政策」に絞って、国土交通省の取り組みをもう少し深掘りしてみましょう。

.交通政策の推進

日本の交通政策は、平成25年に制定された交通政策基本法 に基づいて方針や施策が決められてきました。

また、道路法や鉄道事業法、航空法など、それぞれの交通手段に特化した法律や、交通安全に関する方針を示す交通安全対策基本法などがあり、これら法律群が交通体系を包括的に支えています。

そして、交通政策基本法に基づいて現在進められている第2次交通政策基本計画(令和3~7年)の基本方針は、以下の3つです。

  ・生活に必要不可欠な交通の維持・確保

  ・高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化

  ・持続可能でグリーンな交通の実現

地域公共交通の維持・確保や、自動運転、DXによる高機能化に加え、脱炭素化や災害時の安全確保なども重視されていることがわかります。

「国土交通白書」では第2部「国土交通行政の動向」において、施策ごとに交通への具体的な取り組みや注目点が紹介されています。

その主要な論点をテーマに分けて解説します。

(1)地域活性化の推進(第3章)

地方創生・地域活性化に向けた取り組みとして、地方公共交通における交通DX・GXの活用や、利便性・生産性・持続可能性の高い地域公共交通への 「リ・デザイン」を加速化させることが謳われています。

具体的には地方バス路線、離島航路・航空路等の生活交通の確保・維持を図ることや、地域の自家用車・ドライバーの活用(日本版ライドシェア)などが含まれます。

(2)心地よい生活空間の創生(第4章)

多様な価値観を前提とする新しい住まい方や、頻発・激甚化する災害への対応などを考慮した、心地よい生活空間づくりにおける交通政策としては、利便性の高い交通の実現(都市鉄道やバスなど)や、歩行者・自転車優先の道づくりの推進も掲げられています。

(3)競争力のある経済社会の構築(第5章)

交通政策の重要な任務のひとつは、日本全体の生産活動を支える基盤作りです。幹線道路・鉄道・航空ネットワーク等の整備、さらに物流DXや物流標準化によるサプリアチェーン全体の最適化などは、地方経済の活性化に直結します。

また、こうした社会資本を支える建設産業についても、「地域の守り手」として不可欠な存在であると注目しています。

(4)安全・安心社会の構築(第6章)

「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」を謳うユニバーサルデザインの考えを踏襲し、公共交通機関のバリアフリー化や、災害に強い交通体系の確保、運輸事業者における安全管理体制の構築・改善、道路交通における安全対策の促進などの重要性が示されています。

(5)美しく良好な環境の保全と創造(第7章)

地球温暖化対策を推進する立場から、グリーンインフラの社会実装や、環境の優しい自動車の開発と普及、道路交通のグリーン化、公共交通機関の利用促進、物流サービスの最適化、再生可能エネルギー等の利活用の推進などが指摘されています。

(6)DX及び技術研究開発の推進(第9章)

土交通行政全体のDXを進めるため、ITS(Intelligent Transport Systems:「高度道路交通システム」)の推進を掲げています。これは、最先端の情報通信技術を活用して交通管理の最適化、事故防止と安全運転支援、公共交通の利便性向上などの実現を目指すものです。

その他、自動運転の実現や地理空間情報の活用、ビッグデータの活用も重要です。

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は地域、そして国の現在と未来を支える国土交通行政について、そして交通政策についてご紹介しました。

一言で国土交通省の業務、また交通行政と言っても、その管轄エリアは広く、テーマも多岐にわたります。

中でも交通政策は国民生活や経済活動を支える、各領域を横断する重要テーマです。

そして、令和6年版で示された「持続可能な暮らしと社会の実現」に向けても、交通は欠かせない存在であると言えるでしょう。

本コラムの内容を皆さまの身近な地域インフラや交通機関に重ねてみると、未来の地域の姿が見えてくるかもしれません。

当社は創立以来、約30年にわたり交通に関わる多様な調査を行ってきました。

特に私たちが得意とする交通量や交通動態に関わる調査、施設の利用実態調査などは、国が目指す持続可能な社会づくり、まちづくり、地域の安心・安全を支える基盤でもあります。

白書で示された未来の社会像の実現に向け、当社も交通・まちづくりのプロフェッショナルとして、挑戦し続けます。

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