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地域交通DX ―地域交通を“リ・デザイン”するMaaS2.0の挑戦―

コラム

人口減少を背景とする地域交通の運行本数削減や運行廃止、交通空白地の発生が大きな社会問題として注目される中、地域交通の課題をデジタル技術で解決しようとする取り組みが各地で進んでいます。

特に2025年度からは、国土交通省を中心に、地域交通の「リ・デザイン」を強力に推進するプロジェクト「地域交通DX:MaaS2.0」がスタートしました。

このプロジェクトでは、地域交通の未来をどのように描き、その実現に向けてどのような取り組みが進められているのでしょうか。

本コラムは、この「MaaS2.0」の概要と、具体的な取り組みについて解説します。

Contents

  1.地域交通の現状とMaaSへの取り組み
   ① 地域交通の現状と課題
   ② 交通手段を一元的に扱うサービス・MaaSとは
   ③ MaaS推進により見込まれる効果

  2.地域交通の「リ・デザイン」を目指すMaaS2.0
   ① 従来型MaaSとの違い―MaaS2.0の定義と特性―
   ② MaaS2.0を構成する4つの観点

  3.MaaS2.0の具体的な取り組み事例
   ① サービスの高度化
   ② データの利活用
   ③ マネジメントの最適化
   ④ ビジネスプロセスの改革

  4.MaaS2.0が目指す未来と今後の課題
   ① データ連携と標準化の壁
   ② 各分野を横断するルールづくり
   ③ 人口減少社会における持続性の確保

  まとめ

1.地域交通の現状とMaaSへの取り組み

近年、日本社会は少子高齢化や人口減少に直面し、地域交通の利用者の減少傾向が続いています。

特に地方ではその傾向が顕著で、公共交通の維持が困難になる地域は今後増加すると予想されています。

公共交通のうちバスを事例に取り上げると、三大都市圏以外の地域では輸送人員が過去20年にわたり減少傾向が続き、またそのバス事業者の多くが赤字経営に直面しています。

さらに、こうした経営状況は運転手の賃金にも影響するため、慢性的な運転手不足と言われています。

参照:コラム「社会実験で切り開く公共交通の未来」

鉄道やタクシーなども含め、地域交通の経営は今後ますます厳しくなることが予想されます。

そして、さらに懸念されるのが交通空白地の発生です。

移動を支える地域交通は、生活者の通勤や通学、通院などを支える重要なインフラですが、利用者が減少すれば廃止に至る地域も出てくるでしょう。

国や地方自治体による補助金での赤字補填にも限界があります 。

こうした人口構成や社会構造の変化を踏まえ、国土交通省を中心に地域交通の新しい姿が模索されてきました。

そのひとつがMaaS(Mobility as a Service、マース)の取り組みです。

MaaSとは、ICT(情報通信技術)を活用し、鉄道やバス、タクシー、シェア自転車などの交通手段を繋ぎ、一元的に検索や予約などを行うことができるようにするサービスの総称です。

それまで個別に行われていた各交通手段の運用を一元的に扱うことで、例えば目的地までの最適な移動経路の検索や、予約から支払いを一括して行うことが可能になります。

日本では2010年代後半から議論が活発化し、2020年代に入ると実用化に向けた実証実験が各地で重ねられてきました。

各種交通手段の効率化に向けた複数の事業者による取り組みの他にも、過疎地型、地方都市型、観光地型など、各地域の特性を活かした様々な取り組みが官民連携で進められています 。

〈 具体的な取り組みはこちら:国土交通省「日本版MaaS推進・支援事業の実施について」 〉

MaaSにより解決が期待される地域課題を整理すると、以下のようなものが挙げられます 。

  • 住民の移動手段の確保
  • 公共交通機関の利便性向上
  • 公共交通網を維持する
  • 観光客の来訪を促す
  • 来訪した観光客の行動の活性化
  • 買い物や通院等、その他の生活サービス分野との連携

このように、MaaSへの取り組みが拡大することで、交通空白地の解消や渋滞の緩和、移動の効率化が進むと期待されています。

こうした取り組みが進めば、高齢者や子育て層、運転免許非保有者など移動の難しさを抱える方々に移動手段を提供できるほか、公共交通による外出や周遊の機会創出、交流人口や消費の拡大、地域の活性化などにつながる可能性も秘めているのです。

2.地域交通の「リ・デザイン」を目指すMaaS2.0

そして、MaaSの発展型といえるMaaS2.0の取り組みが、2025年度から本格的に始まりました。

MaaS2.0とは、従来のMaaSの考え方から、DX(デジタルトランスフォーメーション)を徹底的に進め、より高度でシームレス(なめらか)な連携を目指す取り組みです。

従来のMaaS(MaaS1.0とします)では交通手段のデジタル統合に力点が置かれていました。

それがMaaS2.0ではデータの統合や分散型のプラットフォーム(関わる主体ごとにデータを所有しつつ、連携してデータを活用できる仕組みのこと)の構築が進められます。

また、システムの連携主体も交通事業者のみならず、行政や民間事業者も関与すれば、地域交通の利便性改善とともに、私たちの生活の質的向上や産業構造の強化などがさらに進むと期待されています。

このように、MaaS2.0は地域の交通に加え、物流や生活サービスなど「移動」に関連する様々な領域での新しいスタイルを提案しています。

そのことから、MaaS2.0は地域交通の「リ・デザイン」への取り組みと言われているのです。

MaaS2.0の別名は「地域交通DX推進プロジェクト」です。

DX推進を強化することで、地域交通の「持続可能性」「利便性」「生産性向上」を図り、デジタル活用を一体的に進めるエコシステム(システム連携)の構築を進めています。

そして、MaaS2.0ではデジタル活用による問題解消が可能な領域を4つ設定しています。

この「4つの課題」に対し、解決するアプローチとして「4つの観点」を導き出し、具体的な施策につなげる意図です。

ここでは、このエコシステムのベースとなる「4つの課題」と、その解決に向けた切り口である「4つの観点」についてご紹介します。

課題①:サービス品質の向上

地域交通は不特定多数の地域住民や観光客などが利用します。

その際、「わからない」「難しい」など、利用者の不便を解消する必要があります。

シームレスな移動体験の提供や、それを支えるツールのUI/UXの実現、さらに観光や医療、商業など他のサービス領域との連携を深めることで、移動需要自体の喚起を進めます。

観点①:サービスの高度化

課題②:データ取得環境の構築

地域交通の現況評価や利用状況の把握、将来の予測等を可能にするため、交通サービスを横断した解像度の高いデータ取得環境や、地域におけるデータ共有の仕組みの構築が必要です。

そのためには、データを扱う事業者や自治体職員の能力向上(それに向けた支援)も欠かせません。

観点②:データの利活用

課題③:データドリブンな全体最適化

データドリブンとは、客観的なデータに基づく意思決定や取り組みを行うことを意味する言葉です。

地域の輸送資源を効率的に配置し、全体最適を図るためには、取得したモビリティ・データ等を活用した分析、それに基づく施策や技術の社会実装、地域公共交通計画のアップデート等を進める必要があります。

観点③:マネジメントの最適化

課題④:産業構造の強靭化

地域交通に関わる事業者のDXを推進することで、運転手を始めとする人手不足の解消や業務の生産性向上が図られ、その余力をもって新たな技術革新やサービスの開発が可能になります。

そのためには、個社での対応にとどまらず、業務モデルの標準化や事業者・システム間連携のための技術革新なども必要になるでしょう。

観点④:ビジネスプロセスの改革

このように、デジタル技術により課題解消が可能な領域(4つの課題)に対して、MaaS2.0では4つのアプローチ(4つの観点)を設定してデジタル活用を一体的に推進することにしているのです。

.MaaS2.0の具体的な取り組み事例

では、MaaS2.0の推進に向けて設定された4つの観点(サービスの高度化・データの利活用・マネジメントの最適化・ビジネスプロセスの改革)に基づいて、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。

初年度となる2025年度は、19件のプロジェクト公募を行い、受託事業者が選定されています 。

ここでは4つの観点ごとに事例を抜粋してご紹介します。

  • 新幹線の予約システムとタクシー配車の連携
  • 病院予約システムと、デマンドバス配車システムの連携による予測モデル構築
  • 福祉、観光、教育など、管理主体の異なる地域施設送迎車両の共同化
  • 終電後にタクシーが捕まらない問題を、リアルタイムマッチングシステムで解消
  • 各モビリティの利用データや、GTFS(公共交通機関の時刻表や運行情報などのデータを共通化する国際的な規格)の標準仕様化、データ管理のコスト低減やアプリでの活用を推進
  • オンデマンドバスなどデマンド型交通の経路検索を可能にする新技術の実証実験
  • 各種交通データを公共交通計画の策定に活用する支援ツールの開発(自治体向け)
  • 地域交通「リ・デザイン」の実現に向けた地域交通総合シミュレーション技術の開発
  • バス車両とバス停の短距離通信によりバス停の掲示情報を更新する技術の開発
  • 各モビリティの利用データや、GTFS(公共交通機関の時刻表や運行情報などのデータを共通化する国際的な規格)の標準仕様化、データ管理のコスト低減やアプリでの活用を推進
  • オンデマンドバスなどデマンド型交通の経路検索を可能にする新技術の実証実験

4.MaaS2.0が目指す未来と今後の課題

このように、地域交通DX:MaaS2.0は地域課題の解決とともに、未来の地域交通のあり方を検討し、実装する大きな社会実験として取り組みが開始されています。

これにより、私たちの生活の利便性向上はもちろん、地域社会の活性化につながると期待されています。

一方で、MaaS2.0の推進には課題もあります。ここでは、MaaS2.0で注目される課題を3つの側面から整理しました。

異なる交通事業者のみならず、行政や異業種の事業者も関わる分散型プラットフォームのデータ連携においては、仕様の標準化や運用に関するルール設定が大きな課題となります。

特に個人情報や交通データを扱う上でのセキュリティへの対策は必須です。

サービスを提供する交通事業者、その他の事業者や行政の間での責任範囲の明確化と法的な枠組みの構築は必須です。そこには、データ連携や構築するシステムに関する整備も含まれます。

また、今後は共同経営や異業種間の連携も想定されることから、独占禁止法の特例措置の検討や、地域ごとに異なる課題・ニーズに対応する柔軟さも求められます。

様々な事業者が関わることになるMaaS2.0においては、①の技術面のみならず、事業の運用面でも協力や役割分担などにおけるルールが必要です。

また、対象となる地域は都市部もあれば地方(過疎地域含む)もあります。高齢者やITの活用に慣れていない利用者への配慮も欠かせません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

2025年度から本格的に進められている地域交通DX:MaaS2.0への取り組みは、交通空白地の解消や、地域交通事業者の人材不足への対応、経営改善が図られることが期待されています。

さらに交通事業者のみならず、関連する様々な事業者や行政も巻き込んで、地域全体が交通を通して活性化し、また利便性が高まり、持続可能な地域運営につながる未来も見えてきました。

当社もこれまで常に社会課題の解決や持続可能な未来を見据え、交通・都市計画に関する調査や分析、提案などを行ってきました。

そんな私たちから見ても、このMaaS2.0の取り組みは、地域交通の未来を作る「リ・デザイン」そのものだと実感します。

当社もこの大きな社会的挑戦に向けて、調査や分析などの経験を活かし、参画していきたいと考えています。

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