安全でスムーズな空の旅に向けて ―空港施設の旅客流動調査―

飛行機は私たちの生活に欠かせない移動手段のひとつです。
その飛行機が離着陸する空港のターミナル施設では、日々、旅客の搭乗手続きや荷物の搬出入、食事や買い物などが行われています。
連休や旅行シーズンには特に混雑し、フライトのピーク時間帯が重なると待ち時間の増大など激しい混雑が発生する場合もあります。
利用集中時の混雑は致し方ない部分があるとはいえ、混雑をできるだけ避けつつ、いかに効率的に、安全に顧客やその荷物の移動をうながし、かつ心地よい滞在時間を提供できるか。それらの実現に向け、最初に必要となる旅客の利用状況を把握するために「旅客流動調査」を取り入れるケースがあります。
本コラムでは、この空港施設における旅客流動調査がどのように行われているのかについて、当社の取り組み事例から迫ってみたいと思います。
1.空港施設の旅客流動調査
2.どこから入り、どこに、どのくらい滞在しているのか
① 利用者の交通手段
② 施設の到達時刻
③ 施設の処理時間
④ 手荷物の動態(占有時間など)
3.空港施設の流動調査の特徴や配慮すべきこと
① 調査ではデジタルを積極的に活用
② 空港施設ならではの配慮
1.空港施設の旅客流動調査

私たちが利用する航空機が離着陸する空港施設は全国に分布し、成田国際空港や東京国際(羽田)空港のような拠点空港が28か所、地方管理空港は54か所にも及びます。
こうした空港施設に設けられる「旅客ターミナルビル」は、旅客やその荷物を安全に、また円滑に移動するための対策や工夫が随所に施されています。
例えば、空港へのスムーズな移動を可能にする交通手段、チェックインや出入国管理といったサービスの拡充、わかりやすい案内表示の設置、バリアフリーのデザインなどです。
交通量調査を主要業務のひとつとする私たち都市ネットは、空港施設を利用する旅客や手荷物の流動を定量的に把握する調査に、過去30年以上に渡り携わってきました。
続けて、空港施設における旅客流動調査の内容や手段、また空港施設特有の注意点などについてご紹介していきます。
2.どこから入り、どこに、どのくらい滞在しているのか

空港の旅客流動調査では、施設により多少の変化はありますが、おおむね以下のような項目について調査を実施します。
①.利用者の交通手段
規模の大きな空港の場合、一日の利用者数は数万人から十数万人に及びます。
利用者は鉄道やバス、タクシーなどの公共交通機関に加え、自家用車を利用する場合もあります。
旅客の人数はもちろん、利用交通機関、送迎の有無などを確認することで、公共交通機関の適切な運行数の検討、必要なバース数や滞留面積などの計画立案に資するデータを取得します。
②.施設の到達時刻
利用者が搭乗するまでには、国際線の場合、チェックイン、保安検査場、出国審査場、搭乗ゲートの、主に4つのポイントを通過します。
これらへの到達時間(出発時刻の〇分前に〇〇へ到着)の分布を把握することで、時間帯による混雑度の把握や、各施設の運用時間などの計画立案に資するデータを取得します。
これは入国の際にも同様の考え方で計測が可能です。入国の場合は降機口、入国審査、検疫、税関といった施設になります。
③.施設の処理時間
保安検査や出国審査において、旅客の処理に要する時間を計測します。
それにより邦人、外国人別の必要ブース数や検査・審査の人員数、生体認証のような新システム導入時などの計画立案に資するデータを取得します
④.手荷物の動態(占有時間など)
手荷物搬出入施設(メイクアップ、ブレイクダウン、バゲージクレイム)において、便別の占有時間や荷物の到達時刻分布などを測定。搬出入施設の不足や無駄な運用の把握に役立ちます。
3.空港施設の流動調査の特徴や配慮すべきこと

空港の流動調査は対象となる旅客や荷物の規模が大きく、また手続きや安全対策など、配慮すべきことが多い調査でもあります。
ここでは、空港の流動調査の特徴や留意点などについてご紹介します。
①.調査ではデジタルを積極的に活用
空港の流動調査に用いる手法は主に2つ、対面式アンケートとビデオカメラによる定量調査です。
調査項目の多さや対象施設の広さ、調査時間の長さなどから、かつては調査員を大量に動員し、大々的に実施していました。
しかし、近年は人手不足や労務管理を徹底する必要性から、少人数で実施可能な体制の整備を進めています。
それでも、細かい調査項目の聞き取りや臨機応変な対応には、熟練した調査員による対面式のアンケートが欠かせません。
こうした丁寧な配慮が必要な場合には調査員が対応し、それ以外はビデオカメラを中心とするデジタル技術の導入を積極的に進めています。
また、新たなデジタル技術の活用も積極的に進めています。
例えば、赤外線やレーザー技術などを活用する交通量自動計測機や、無線周波数で追跡を行う小型のデバイス(RFIDタグ)を活用した調査、スマートフォンのWi-Fi電波を解析することで旅客の動きをデータ化するセンサー技術などです。
②.空港施設ならではの配慮
空港施設の調査では、その施設の特性上、特別な配慮も必要です。
そのひとつが多言語対応です。
訪日外国人旅行者数は2018年に3,000万人を超え、コロナ禍で減少したもののその後は回復し、2024年には3,687万人に達しました 。
国際空港に限らず、地方空港でも外国人旅行者の利用は増えています。
こうした旅行者へのアンケート調査が円滑に行えるよう、英語はもちろん、特に韓国語や中国語に対応できる人材を調査が実施される都度、確保してきました。
また、空港施設の仕組みへの理解は必須です。
例えば、飛行機の搭乗まで/降機後の流れや旅客が滞在可能な空間の把握、厳重なセキュリティ審査と持ち込み品の制限、徹底した持参物の管理などです。
危険物とされる物品を紛失してしまったら、それが見つかるまで徹底的に探さなければなりません。
調査員に対しては、これら空港ならではの特別な事情や決まりごとなどについて、事前の研修や説明会を通して教育を行い、円滑かつ安全に調査が進められるような体制の構築に努めています。

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。
空港施設の旅客流動調査では、その特性を踏まえた上での緻密な計画や準備が必要です。
すなわち、調査員の配置や機材の搬入、広範な施設の利用状況、安全対策などを含めた実施計画と、それらを円滑に進める管理側スタッフの段取りが、成否を左右すると言っても過言ではありません。
それらを可能にするのは、経験に裏打ちされた熟練技が成すものもありますが、新たな技術や手法を取り入れることで、時代の変化に即した調査体制に改善・進化させてきた社員のチャレンジ姿勢や、丁寧な仕事への取り組み姿勢でもあります。
こうした当社の企業風土を生かして、新しい領域にも果敢にチャレンジしていきたいと考えています。