未来のクルマ―自動運転技術やEV研究の最前線―

日本の製造業を支えてきた自動車産業は、大きな変革期を迎えています。
人口減少による需要の縮小や、海外の競合の台頭と国際競争力の低下、環境保全への対策など、その経営環境は厳しさを増すばかりです。
一方で、こうした経営環境の変化に適応しつつも、新たな需要を見据えた次世代の取り組みが進んでいます。自動車産業は今、新しい時代に突入していると言えるでしょう。
本コラムでは、未来に向けて動く自動車産業の「挑戦」を解説します。
1.昨今の自動車産業のトレンド
① 自動車産業が直面する課題
② 自動車産業の変革に向けて ―GXとDXの2つのエンジン―
2.EV(電気自動車)開発と自動運転技術の現状と課題
① 電気自動車(EV)研究最前線
② 自動運転技術の最先端
3.未来のクルマと私たちの暮らし
① モビリティDX戦略
② 夢の実現に向けて ―空飛ぶクルマ 開発―
③ 未来のクルマと私たちの暮らし
1.昨今の自動車産業のトレンド
①.自動車産業が直面する課題
戦後日本の製造業は、繊維から鉄鋼や機械と拡大し、1970年代以降は自動車産業や電気機械などへと広がりました。
特に自動車産業はその高い技術力と性能の良さから世界市場で評価され、国内的にも生産基盤が確立されるなど、大きな経済効果を生む産業として成長しました。
その一方で、近年は様々な課題にも直面しています。
例えば、少子高齢化や人口減少による需要の縮小、グローバル市場におけるプレイヤーの増加や関税リスク、電動(EV)やハイブリッドへの対応、環境意識の高まりとCO2排出量削減への社会的な要請などがあるでしょう。
また、地域社会に目を向ければ、交通事故のリスクや渋滞の発生による経済的な損失もあります。
高齢者による過失事故を問題視する指摘がある一方、通院や買い物で自動車を必要とする高齢者も多いことから、最近は移動手段の確保に向けて自動運転バスへの注目が高まっています。
このように、自動車が私たちの生活と密接に関わっているからこそ、その課題は多岐にわたり、また複雑化していると言えるのです。

②.自動車産業の変革に向けて ―GXとDXの2つのエンジン―
それでも、日本の自動車業界が今後も日本経済を牽引していく存在であることには変わりません。
市場における優位性、安全対策や経済対策の強化などに取り組みつつ、成長産業として国際競争力を強化するため、日本政府はこれまで自動車産業に対する様々な戦略を打ち出してきました。
そのひとつが2020年10月に公表された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 」です。
これは、日本政府が2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにすることを目指して打ち出された「2050年カーボンニュートラル」宣言に基づくもので、成長が期待される14分野には自動車・蓄電池産業が含まれています。
そこでは、電動(EV)車や蓄電池などの普及に向けた目標が設定されています。
これは、今後の自動車産業がGX(グリーン・トランスフォーメーション)を軸に変化していくことを見越した戦略でもあります。
このGXとともに注目されているのがDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。自動車業界においても設計や製造の過程でデジタル技術の導入が進み、また車体にも様々なソフトウェアが搭載されるなどのDX化は着々と進められてきました。
こうした自動車産業の変革を表す言葉に「CASE」があります。これは、「Connected(IoTによる車両とネットワークの接続)」、「Autonomous(自動化)」、「Shared & Service(シェア・活用)」、「Electric(電動化)」の頭文字を取ったものです。
- Connected(つながる):車両がインターネットや他の車両と接続され、位置情報や渋滞情報をリアルタイムで共有できるようになります。
- Autonomous(自動化):センサーやAIの進化により、人間が運転しなくても安全に走行できるクルマの実現を目指します。
- Shared & Service(シェア・サービス):所有せずにカーシェアや移動サービスを利用できる選択肢が広がります。
- Electric(電動化):ガソリン車からEVへ移行することで、環境負荷を減らし、持続可能な社会に貢献します。
これら4つの変革が、互いに組み合わさって「未来のモビリティ」を形づくる、自動車業界の大きな潮流になると言われているのです 。

2.EV(電気自動車)開発と自動運転技術の現状と課題
①.電気自動車(EV)研究最前線
日本国内での電気自動車(EV)の普及率はまだまだ低い水準ですが、世界では生産台数、普及率ともに拡大傾向を示しています。
国内各社も新型EV車の開発を進めており、今後は自家用車、商用車ともに続々と市場に投入される予定です。
普及の課題と言われていたバッテリーについては、リチウムイオン電池の高性能化に加え、より安全性や性能が向上すると期待されている固体電解質による電池や、別の素材を用いた電池の開発も進められています。
その他、電動モーターや制御技術など、電動自動車の動力をつかさどる「モーター・パワートレイン技術」の開発は、更なる高性能化、効率化、小型・軽量化などに向かうでしょう 。
こうした技術開発とともに、その製造を担うサプライチェーン側の設備投資や、充電インフラの整備などの課題にも取り組む必要があります。

②.自動運転技術の最先端
今後の自動車業界の行方を検討する上で、自動運転を外すことはできません。ここでは自動運転レベルの紹介と、現在の開発実態についてご紹介します。
まず、自動運転のレベルには、運転の自動化がない「レベル0」から完全自動化の「レベル5」までの6段階があります。各レベルの概要は以下の通りです 。
「レベル0」:運転者がすべての操作を行う
「レベル1」:システムがハンドルの操作または加減速のいずれかを支援
「レベル2」:システムがハンドルの操作または加減速の両方を部分的に行う
「レベル3」:決められた条件下ですべての操作を自動化(ただしシステムからの要請があればドライバーは運転に戻る必要あり)
「レベル4」:決められた条件下ですべての操作を自動化
「レベル5」:条件なく、すべての操作を自動化
「レベル3」以上は運転操作の主体がドライバーではなく、システム側になります。
「レベル4」の「決められた条件下」とは、例えば特定の専用道や敷地内など走行が限定されているケースです。
それに比べると、「レベル5」は「完全自動化」ですが、その実現には車両の周辺の情報を認知し、予測や判断を行うためのセンサーやAI(人工知能)技術の更なる開発が必要と言われています。
日本における自動運転技術の開発は、「レベル3」から「レベル4」の実現へと進んでいます。日本政府も2023年の改正道路交通法により、レベル4の実装を推し進める姿勢を示しています。
3.未来のクルマと私たちの暮らし
①.モビリティDX戦略
ここまで、自動車産業を巡る近年の新しい動きについてご紹介しました。
では、こうした環境変化に対する取り組みによって、私たちの未来にはどのようなモビリティ(移動や輸送手段)の世界が待ち受けているのでしょうか。
2024年5月、経済産業省と国土交通省のWG(ワーキンググループ)は「モビリティDX戦略 」を公表しました。
これは、自動車産業で注目されてきたGXへの取り組みに加え、今後はデジタル技術を駆使したクルマのソフトウェア化や、新技術の社会実装に向けた環境整備など、DX政策にも力を入れる必要性について指摘するものです。
この中で特に重点施策として注目されているのが、車両の機能や性能をソフトウェアで制御・更新するSDV(Software Defined Vehicle)技術の普及です。
これは、スマートフォンのようにソフトウェアを更新するだけで機能拡張や性能向上が可能となる仕組みであり、クルマが常に最新の状態へ進化できることを意味します。
あわせて、自動運転技術の実装拡大や、データ利活用の促進なども重点的に進められています。
こうした取り組みにより、本コラムの冒頭で挙げた様々な課題の解決はもちろん、車両を活用した新たなサービスの創出や、医療福祉・観光など異業種との連携、製造から社会実装までのプロセスで得られたデータの利活用などが進むと期待されています。
今後は、未来のクルマが私たちの生活の一部として、少しずつ普及していくことになるでしょう。

②.夢の実現に向けて ―空飛ぶクルマ 開発―
ここで少し視点を変えて、「空のモビリティ」についてもご紹介します。
これは、「電動」や「自動(運転)」の技術を活用し、「垂直離着陸」が可能な空中を移動する手段のことを指します。
一般的には「空飛ぶクルマ」と称されることが多く、世界に先駆けた「空の移動革命実現」のため、日本でも官民が連携して研究開発が進められています。
現在(2025年9月)、大阪府で開催されている大阪・関西万博では、会場内の「モビリティエクスペリエンス」において空飛ぶクルマのデモフライトが行われています 。
それは主に敷地内での飛行ですが、開催期間中は海上での飛行も予定されています。
「空飛ぶクルマ」は今後、開発業者や運行会社による実証実験が重ねられ、数年先の商用運行開始と、その先の本格的な社会実装が目指されています。
「空飛ぶクルマ」も私たちの未来を支えるモビリティのひとつなのです。

②.未来のクルマと私たちの暮らし
このように、未来のクルマの開発は官民挙げて積極的に進められています。
そして、これらは遠い未来の話ではありません。
自動運転技術の実証実験はレベル4に進み、「空飛ぶクルマ」の実用化も見えてきました。
都市ネットが関わる自動運転バスのように、実証実験が進む取り組みもあります。実は、もう未来はすぐそこまで来ているのかもしれません。
その実現のためには、センサーやAI技術、またセキュリティ環境も含めて社会全体での情報インフラ整備が必要です。
加えて、それを可能にする法律や安全基準の整備、倫理的な課題の克服など、社会的な受容も不可欠です。
技術の革新とともに、社会全体の、そして私たち自身の適応も求められていると言えるでしょう。
ここでご紹介した自動運転バスの実証実験については、次回のコラムで深掘りする予定です。

4.まとめ

このように、自動車産業や国は様々な変化や厳しい競争環境に直面しながらも、未来のクルマの開発、そして次世代モビリティの実現に向けた様々な取り組みを進めています。
私たちの生活に欠かせないクルマは、新たな技術を積極的に取り入れることで、移動手段としての乗り物の役割を超えて私たちの生活自体の質を向上させていく存在になるでしょう。
それは単に生活が便利になるだけではなく、CO2排出の削減による持続可能な社会の実現や、移動手段の多様化による生活課題の解決、さらにはスマートシティの実現や地域活性化に至るまで、様々な効果を生むと期待されているのです。
私たち都市ネットも、自動運転に関連する社会実験に関わる中で、次世代モビリティの可能性を実感してきました。
これからも様々な事業を通して、未来の社会づくりに参加していきたいと思います。